日本人の死因第一位となって久しい「がん」は、国民病とも言えるくらい身近にある病気。治療にあたって患者自身がつらいのはもちろんですが、周囲の人、特に患者を支えるべき家族の負担も重くなりがちです。
内閣府の行なった「がん対策に関する世論調査(平成29年1月)」によると、がんをこわいと思う理由として「がんの治療や療養には、家族や親しい友人などに負担をかける場合があるから」が二番目に多い結果となっています。
出典:内閣府「がん対策に関する世論調査」(平成29年1月)より
最近では芸能人の闘病生活がインターネットやテレビなどで取り上げられることも増え、そうした情報から周囲の人のサポートが大変だという印象につながっているのかもしれません。実際、がん患者の家族は“第二の患者”とも呼ばれることがあるくらい、負担が大きいと言われています。
ここでは、そうしたがん患者を支えなければならない家族や周囲の人がどのように治療のサポートに臨むべきか、ご紹介します。
家族に対する6つのアドバイス
先ほど挙げた内閣府の世論調査のとおり、死につながるイメージを持つ人が多いがん。告知を受けた患者の多くはショックを受けてしまいます。そんな患者を支えるために、家族はどのように向き合えばいいのでしょうか。
「がんを患うことで将来の見通しが立たなくなるだけではなく、できないことも増え、精神的な負担はとても大きくなります。だからこそ、患者の話をじっくりとよく聞くことが大事です」
そう語ってくれたのは、国立がん研究センター中央病院の加藤雅志先生。加藤先生はまだ日本でも数少ない「家族ケア外来」で、がん患者を抱えた家族に対してカウンセリングを行なっています。がん患者との向き合い方として、加藤先生は家族に6つのアドバイスをしているとのことです。
1.患者の話をよく聞くこと
2.答えがすぐに出ない難しい話題でも、避けずに向き合うこと
3.患者の希望を尊重し、安易な説得や価値観の押しつけをしないこと
4.正確な情報を集めること
5.必要に応じて、専門家への相談を促すこと
6.家族も自分の生活を大事にすること
患者を尊重して寄り添うように対話をすること
先ほども紹介したように、まずは「1.患者の話をよく聞くこと」が大事だと加藤先生は言います。
「がんを患うことで患者は常に不安にさらされています。そのため、一度結論が出た話でも、繰り返し話をすることがよくあります。今後の見通しがつかない状況であればあるほど、このようなことは多く見られます。以前にも同じ話をしたからと突き放すのではなく、家族としてはその話にできるだけ向き合って、患者が自分なりに納得できるところまで一通りの話を聞くことが大切です。きっと、患者は安心が得られると思います」
患者は相談に対して何か結論を出してもらいたいわけではなく、不安を共有したいのだといいます。そのため、「2.答えがすぐに出ない難しい話題でも、避けずに向き合うこと」が大事だとのことです。
家族は医療を行なう専門家ではありません。そのため無理に答えを出してあげたり、専門家ではないからと対話を避けたりせず、患者に向き合って話を聞く姿勢が必要ということです。
その上で、「3.患者の希望を尊重し、安易な説得や価値観の押しつけをしないこと」も大事だと加藤先生は続けます。
「家族としては悩みを解決してあげたいがために、具体的なアドバイスをしたくなるものです。しかし、専門家ではない家族が答えを出すのは困難なことでしょう。それよりも、医師にはできない部分、例えば不安が強くなった時にそばにいること、繰り返し出てくる患者の心配に付き合っていくことなど、家族にしかできないことをしていくのが良いでしょう」
家族だからこそできる役割とは
がんの治療は専門家である医師に任せるのが最適です。では、家族にできることとは何でしょうか。
「患者本人が医師に直接伝えにくいことを代弁していくことも家族の大事な役割です。患者は遠慮して治療に対する要望を医師に伝えられないこともあります。そうした時には家族が代わりに伝えていくことで、患者の負担を軽減することができます」
そのためにも、「4.正確な情報を集めること」が大事だと加藤先生は言います。
「国立がん研究センターが提供している『がん情報サービス』など、根拠に基づいている情報源などを使い正確な情報を得ておけば、医師との話もしやすくなります。他にはがん拠点病院の相談支援センターに相談するのも良いでしょう」
また、患者の悩みがなかなか解決できない時や、気持ちのつらさがいつまでたっても良くならない時には、「5.必要に応じて、専門家への相談を促すこと」も大事だと言います。
家族自身の生活を大事にすることが重要
最後の「6.家族も自分の生活を大事にすること」がとても重要だと加藤先生は強調します。
「家族が自分自身の生活を大事にすることが最優先です。がん治療は長期戦です。自分の全てを犠牲にするような生活は一時的には頑張れても長くは続きません。長く支援を行なうためにも、無理をしすぎずに長期的にがんと向き合っていく姿勢が必要です」
とはいえ、現在の医療現場では患者が医療対象となるため、周囲の家族の負担にまで配慮されることが少ないそうです。
「病院での家族への対応は『患者である○○さんのご家族』となります。そうではなく、家族ケア外来では、個人としての『××さん』という関係でお話を伺っていきます。家族の方が安心してお話ができる環境を作り、できる限り十分な時間を確保して話し合いができるようにしています」
患者中心になってしまうのは、医療現場だけではないと加藤先生は言います。
「家族自身も『患者が大変なのだから、家族としてもしっかりしなくては』という思いから、頑張り過ぎてしまうのです」
だからこそ、「家族中心の場」が必要だと感じて家族ケア外来を作ったそうです。
患者との向き合い方は普段の関係性次第
改めて、加藤先生に患者との向き合い方を尋ねると、普段からの関係性によるところが大きい、と答えてくれました。
「患者によっては周りの手をわずらわせず、全て自分でやりたいという人もいます。そうした人の家族としては病状も詳しくは教えてもらえず、どうしていいのかわからなくなることもあるようです」
そのため、いざという時に患者となる家族の気持ちに沿った支援を行なえるよう、普段から家族の中でお互いを大切にしたいことを話しておくことも大事なようです。
「がん患者になった時に患者が何を大切にしたいのか。仕事を頑張りたいのか、家族との時間を増やしたいのか。普段何かきっかけがあった時に家族の中で話しておくと、いざという時に話しやすくなると思います」
テレビなどで芸能人のがん闘病の番組を見た時、あるいは知人などががんになった話を聞いた時など、折に触れて話しておくと良いそうです。そうしておくことで、患者も家族も闘病に際してきちんと向き合える関係が作れるというわけです。
普段から治療の話をしておくことも大事ですが、経済的な不安に対してもどう備えておくか、あらかじめ話し合っておくことも必要でしょう。そうした折に、保険に入るべきか、保障内容はどうかなどを確認しておくと安心材料となり、いざという時にも冷静に対応できることでしょう。
<話を聞いた人>
加藤雅志 先生
国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策情報センターがん医療支援部長・中央病院相談支援センター長・中央病院精神腫瘍科。がん患者のカウンセリングを行うと共に、家族に対して「家族ケア外来」として支援を行う。